与えてもらえなかったようで渡してもらっていたもの。
朝から賑わう店内。
アシスタントの私は先輩スタイリストにかわってシャンプーをさせていただいたり、ヘアカラーを一緒に塗らせていただいたり、お客様にサービスドリンクをお出ししたと思ったら、お仕上がりを経てお席を立たれたお客様のお持ち物をお返しして、次のお客様がお掛けいただけるようにお席の後片付けをしたり。
お昼休憩がスタートするのは12時から。
キャリアの浅い者から順番に手の空いた者からいただいていく。いただいたものは次の者へ、休憩を取り損ねる者が出ないように、仕事を代わったりしながらつないでいく。
それでも、どうにもならない場面というのもあって。
取り終えて次の者へ代わりに行こうとしたその足で先輩に呼び止められ次の仕事を渡されて、「悪い!」
「これがひと段落ついたら、あいつにも休憩回してあげなきゃ」
心にとどめながらもそれでも先輩からいただいたチャンスと、お客様のために精一杯。
自分で仕事をつくれないキャリア。先輩方からチャンスをもらえなくなることが一番怖いことでした。
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今でも忘れられない場面があります。
やはりその日も賑やかなサロンワーク。やっとの思いでみんながつないできてくれた休憩、バックヤードで腰掛けて仕出しの弁当を広げたのは17時を少し回るくらいの時間だったと思います。
それでもまた早くサロンワークに戻らないと、の気持ちでかきこむように(早食いのルーツここにあり)いただいていた、その途中。
バックルームに先輩が駆け込んできて、
「あっ、、と、お、、そっか、伊藤休憩か。ちょっと一瞬(サロンに)出られないか?」
NO という返答がないことをお互いに分かっている前提の疑問文ですね(笑)
「はい!すぐ行きます!」
休憩を中座してサロンワークに戻り、10分弱の一瞬を経て、「あ、そうだ食べっぱなしだ。」
事件は、戻ったバックルームで起きました。
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なんと、、、
食べっぱなしでそのままにしてしまっていたお弁当はきちんと蓋をされた状態。
わり箸は箸袋に収められ、つくっていなかった味噌汁(猫舌で飲むのに時間かかると思って当時からいただかないようにしていました。)を入れてもらってラップで保温されている状態でした。
「誰、、こんなことしてくれたの、、、。」
と驚いていたら、、、バックルーム奥から現われたのは、当時の私にとっては雲上人(笑)、サロンマネージャー(店長よりも職位が高い方)。
「食いっぱぐれた上に冷めた飯じゃあんまりだろ。味噌汁もちゃんと飲めよ。」
時は流れ流れ20年。お蔵入りさせる他ないようなエピソード。自分で読み返してみても、たしかに突っ込みどころ満載な気もします。
が。
当時22歳の私は、その上司の計らいがとてもうれしかったし、そんな日々を大変だけど、充実感を感じて過ごし、今を、美容師として生きています。
これは、事実です。
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現在、私のサロンはといえば、従業員は全員(固定の時間ではありませんが)おおよそ30分前後の休憩をお昼にとっています。外出も声をかけてくれればもちろんオッケーです。2か月に一度はお昼時にサロンを閉め全員でシエスタとして、ランチを共にする機会もあります。
こういう待遇については、私のサロンなんて足元にも及ばないくらい、もっともっと厚遇がを実現させている会社さまも増えてきています。
反省すべきを反省して改善していく。
もちろんとてもいいことだと思っています。
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手前どもの話も大いに含みますから披瀝するものではないかもしれませんが、ただその一方で感じていることもあります。
それは、
「いつどのタイミングでどのくらい休憩を取るのがいいのか分からない」従業員。
「周りが違和感を感じるスタンス、長さで休憩を取る」従業員。
そして「それをストレスに感じつつも話合いのできない」従業員が増えたこと。
今風なソリューションで言えば、「環境が仕組みを作っていないから」。もっと言えば、「職場の上長が適切なルールを作っていないから。」指導者の指導力の話になっていくことなのでしょう。
でももしあの当時の22歳の私に尋ねたら。
「そんなの人の仕事を見ていればわかるでしょう。」
従業員同士の想像力と観察力、判断能力の話になっていくことでしょう。
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価値観の正解不正解には、時代性という背景がセットでくっついてくるものですから、あまりそこに青筋を立てる話ではありません。
それよりも、美容師にとっての本質的な改善や進化ってなんなんだろう。ということを考える時間を持ちたいと思うことが増えてきました。(残り時間が減ってきた証拠ですね)
折よろしくこの4月から働き方改革が推進されて、残業時間の上限に関する規制、有給休暇の取得義務など世間一般にも、目に見えるレベルでの変化を感じられるようになってきました。
ただ、改善されたはずの環境に両手を挙げて目に涙を浮かべながら、「やっと叶った改革なんだよ。」と喜んでいる方を、わたしは多く知りません。
同様に、現代の定義で言うところの、ブラックに限りなく近い環境の中で育まれた私は、温かいお客様に囲まれて現在まで美容師として開業を経て20年近いキャリアを重ねてくることができました。
当時に比べれば、ずいぶんと柔軟かつ自由度の高まった美容師の就業環境。
「おかげさまで当時では想像できなかった程度に幸せに生きています。」という美容師は、増やせてこれているでしょうか。
一生この美容師さんについて行きたい!という女性は増やせてこれているでしょうか。
美容師になりたい!という人は増やせてこれているでしょうか。
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人生の時間を共有してくれる従業員たちに経営者として、与えなくていいもの、与えなくていい理由はありません。
ただ与えるもののなかに、従業員たちから先んじて欲しがらせてから渡さなくてはいけないものがあること、優先順位とタイミングを考慮して渡すものがあること。
履き違えると、ずれる本質があること。
よくよく理解しておきたいものです。
与えてもらえなかったようで渡してもらっていたもの。
与えているようで渡せていないもの。
昔話とともに今一度。
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